グローバル規模でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する現代において、世界中の企業は、絶え間ないイノベーションと技術への迅速な適応を迫られています。多くの先進国でIT人材の不足が深刻化し、コスト最適化のニーズが高まる中、グローバル協働モデルの重要性は増すばかりです。特に、ベトナムはIT開発の新たな中心地として台頭し、質の高い人材と革新的なソリューションを求める多くの企業にとって戦略的な選択肢となっています。
本稿では、ベトナムがイノベーションを推進する企業にとって主要なデスティネーションとなる理由、具体的なデータや政策に基づくその優位性、そしてベトナムの開発チームと効果的なグローバル協働戦略を構築する方法について詳しく解説します。
なぜベトナムはグローバルIT開発のハブとなり得るのか?
ベトナムが世界的なテクノロジーマップ上で台頭しているのは偶然ではありません。豊富な人材、有利な投資環境、そして協力的な精神が融合した結果です。
若く、才能豊かで、潤沢な人材
ベトナムは**約1億人(2023年末時点)**の人口を抱え、その多くが若年層という「黄金の人口構造」を有しています。中でも、**IT分野の労働力は推定約53万人(TopDev社の「ベトナムIT人材レポート2023-2024」による)**に上り、その大半がZ世代とミレニアル世代です。彼らは新しい技術に対する学習能力と適応力に非常に優れています。
ベトナムのIT教育の質も継続的に向上しています。ハノイ工科大学、ハノイ国家大学技術大学、ホーチミン市工科大学、ホーチミン市国家大学自然科学大学などの主要大学は、IT分野の教育において常にトップクラスに位置し、非常に高い入学基準を設けています。これらの教育機関は国際標準に合わせたカリキュラムを頻繁に更新し、企業との連携を強化することで、学生が在学中から実習や就職の機会を得られるようにしています。ベトナムのエンジニアは、探究心旺盛で自律的な学習能力が高く、AI、ブロックチェーン、クラウドコンピューティング、IoT、ビッグデータ、ロボティクスといった最新テクノロジーのトレンドを迅速に吸収し、応用する能力で知られています。
競争力のあるコストと優れた投資効率
日本、米国、欧州などの先進国市場と比較して、ベトナムのITエンジニアの給与水準は競争力を維持しており、企業は開発コストを最適化しながら、高品質な製品とサービスを確保できます。
実際に、多くの国際企業がベトナムでのオフショア開発やODC(Offshore Development Center)設立を通じて、高い品質を維持しつつ、魅力的な**投資収益率(ROI)**を継続的に達成しています。この実績が、高品質なプロジェクトを求める各国の市場から、ベトナムへの大規模なアウトソーシングおよびオフショア案件流入を引き寄せています。
有利で安定した投資環境と強力な政府支援策
ベトナム政府は、特に2025年以降の長期的な視点に立ち、IT産業の育成に積極的に取り組んでいます。
- デジタルテクノロジー産業法(2026年1月1日施行予定): ベトナム国会は2025年6月、デジタルテクノロジー産業法案を可決しました。これは、半導体産業、人工知能、デジタル資産の開発に関する具体的な規制を含み、業界の**「制度的な起爆剤」**となることが期待されています。この法律は、ボトルネックの解消、リソースの最適化、強力なデジタル人材エコシステムの構築、そしてコアテクノロジーや戦略的デジタルテクノロジーの習得を促進することを目指しています。
- 法人税優遇: ソフトウェア製造やITサービス(ソフトウェア受託開発を含む)に従事する企業は、優遇措置の条件を満たせば、新規投資プロジェクトから生じる所得に対して15年間10%の優遇法人税率が適用され、さらに4年間は免税、その後9年間は税額が50%減額されます。
- デジタルインフラとデータ開発支援: 政府は、電気通信インフラへの投資、5Gネットワークの全国展開、および国内・地域データセンターの構築を継続しています。**政令169/2025/ND-CP(2025年6月公布)**は、科学技術、イノベーション活動、データ関連の製品およびサービスに関する詳細な規定を設け、データに関する科学技術およびイノベーションのスタートアップエコシステムの発展を強力に奨励しています。
- プロジェクト06と国家DX: 2025年からのプロジェクト06(国民データベース、デジタル身元確認、電子認証アプリケーションの開発を通じた国家DX推進)や、電子政府、デジタル政府、デジタル経済、デジタル社会の推進における政府の断固たる動きは、国内に大きな市場とテクノロジーソリューションのテスト環境を創出しています。
政治的・社会的な安定性もベトナムの大きな強みです。ベトナムは地域で最も政治的・社会的に安定した国の一つと評価されており、海外投資家にとって長期的かつ安全な事業運営環境を提供しています。また、東南アジアの戦略的な玄関口という地理的利点も、地域および世界の主要市場との接続を容易にしています。
高い文化適応能力と協力的な精神
ベトナムのエンジニアチームは、パートナーや顧客を尊重する精神を持ち、様々なプロセスや働き方に積極的に適応しようと努めます。特に、日本企業との豊富な協業経験を持つエンジニアも多く、日本の厳格なプロセス、緻密さ、そして継続的改善(カイゼン)の精神を深く理解しています。ITコミュニティにおける英語力の向上も著しく、グローバルなコミュニケーションと多文化環境での協業を円滑にしています。
ベトナム開発チームとの「グローバル協働戦略」:イノベーションを創出する
ベトナムの開発チームの潜在能力を最大限に引き出すためには、効果的な協働戦略の構築が不可欠です。
日本政府とベトナム政府による協力推進の動き
ベトナムと日本のIT協力関係は、政府間および企業レベルで深化・拡大しています。
- 包括的戦略的パートナーシップ: 2023年、ベトナムと日本は関係を**「アジアと世界の平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」**に格上げしました。これにより、デジタル経済やテクノロジー分野を含む、より広範な分野での深い協力のための強固な基盤が確立されました。
- 定期的な貿易・投資促進イベント:
- ベトナムITデーinジャパン(2024年8月、東京): VINASA(ベトナムソフトウェア・ITサービス協会)、JETRO(日本貿易振興機構)、JISA(情報サービス産業協会)が共同で開催し、「ベトナム – 日本のデジタル経済発展のための包括的ITパートナー」をテーマとしました。ベトナム情報通信省大臣や両国の大企業代表が参加し、戦略的協力機会に焦点を当てました。
- ジャパンICTデーinベトナム(2024年12月、ハノイ): 継続的な連携強化の役割を担い、**AI(人工知能)、レガシーモダナイゼーション(レガシーシステム近代化)、スマートグリーンマニュファクチャリング(スマートで環境に優しい製造)**など、新たな有望分野での協力に注力しました。
- 専門協会設立の動き:
- ベトナム・ジャパンDX協会(VADX Japan – 2024年7月、東京にて設立): 2025年までに日本におけるベトナムIT企業の総売上高を10億ドル、2033年までに70億ドルに引き上げることを具体的な目標としています。この協会は、FPT Japan、RikkeiSoft Japan、VTI、NTQ、HBLAB、CMCなど、日本で活動するベトナムの大手テクノロジー企業をまとめ、国際競争力の向上、投資促進、協力関係の構築を目指します。
- ベトナム・日本半導体協力接続プログラム(2025年2月): ベトナム計画投資省で開催され、世界的に重要な半導体技術分野における戦略的協力を両国政府が推進する意向を示しました。
- 人材育成における協力: ベトナムの大学(例:郵便電気通信技術学院)と日本の教育機関(例:福岡GAG日本語学院)の間で多くの協力協定が結ばれており、高品質で日本語と日本のビジネススキルに長けたIT人材を育成しています。これは日本の人材不足を補い、ベトナム人エンジニアにキャリア機会を創出することを目的としています。
柔軟な協働モデル
企業は、ニーズと戦略に応じて様々な協働モデルを選択できます。
- オフショア開発センター(ODC): ベトナムに独立した開発センターを設立し、プロセス、人材、文化を完全に自社でコントロールするモデルです。
- アウトソーシング/ニアショア: 特定のプロジェクトやモジュールをベトナムのパートナーに委託し、成果物に焦点を当てるモデルで、短期プロジェクトや専門性が高い要件に適しています。
- ハイブリッドモデル: 社内チームと外部パートナーを組み合わせることで、リソースを最適化し、専門知識を活用し、柔軟性と拡張性を高めるモデルです。
効果的なプロジェクト管理とコミュニケーション
グローバル協働の成功は、管理能力とコミュニケーション能力に大きく依存します。企業は以下の点に注力すべきです。
- 共通のプロジェクト管理ツール: Jira、Trello、Asana、Azure DevOpsなどのプラットフォームを活用し、進捗管理、タスク割り当て、バックログ管理を透明化します。
- 多様なコミュニケーションチャネル: メール、チャット(Slack、Microsoft Teams)、ビデオ通話(Zoom、Google Meet)、定期的な会議を組み合わせ、地理的な障壁を越えて情報が円滑に流れ、迅速なフィードバックが可能な状態を確保します。
- タイムゾーンと文化の壁の克服: 柔軟な共通勤務時間の設定を検討し、本社から現地への担当者派遣も視野に入れることで、連携を強化し、相互理解を深めます。
- 個人的な関係構築: 仕事だけでなく、個人的な交流も定期的に行い、相互理解と信頼を深めることで、チームスピリットを育成し、長期的な関係構築を促進します。
品質保証とプロセスの確立
高い品質を維持するためには、以下の実践が不可欠です。
- 標準化されたソフトウェア開発プロセスの適用: アジャイル/スクラムやDevOpsなどの手法を導入し、開発速度と品質を向上させるとともに、開発プロセスを透明化し、継続的なフィードバックと調整を可能にします。
- 厳格なテストプロセスの確立: 単体テスト、結合テスト、ユーザー受け入れテスト(UAT)を含む厳格なテストプロセスを確立し、テスト自動化ツールを活用して、一貫した品質のアウトプットを保証します。
- 情報セキュリティと知的財産権の保護の最優先: GDPR、ISO 27001などの国際的なデータセキュリティ基準への準拠を確保し、厳格な契約および社内ポリシーを通じて知的財産権の保護を徹底します。
イノベーションと付加価値への注力
真にイノベーションを創出するためには、関係性を単なる「コード工場」を超えたものにする必要があります。
- 関係性の転換: 単なる受託開発から、共同での研究開発や革新的なソリューションの創出へと関係性を進化させ、ベトナムチームを思考とイノベーションプロセスの一員として組み込みます。
- アイデア貢献の奨励: ベトナムのエンジニアが積極的にアイデアを提案し、改善に参加し、技術的な意思決定プロセスに加わることを可能にする環境を構築し、彼らの創造性を最大限に引き出します。
- 共同R&Dへの投資: 新しい技術の研究開発プロジェクトで協力し、双方の創造的リソースを活用して画期的な製品を生み出し、テクノロジーの未来を形作ります。
課題と克服策
多くの利点がある一方で、ベトナムとのグローバル協働には、適切に管理すべきいくつかの課題も存在します。
言語とコミュニケーションの壁
- 課題: ベトナム人ITエンジニアの英語力は向上していますが、特に複雑な技術要件や非言語コミュニケーションにおいては、表現のニュアンスの違いが生じることがあります。
- 解決策: 専門的な翻訳ツールを活用し、優れた言語スキルと明確な伝達能力を持つチームリーダーやプロジェクトマネージャーを配置します。辛抱強く、常に情報確認を行うことが重要です。コアチーム向けには、日本語やビジネス英語の専門研修への投資も有効な長期戦略です。
異文化マネジメント
- 課題: 労働習慣、時間感覚、フィードバックの仕方(直接的/間接的)、個人的/集団的価値観などの文化的な違いは、適切に管理されないと誤解を招く可能性があります。
- 解決策: 双方に向けた異文化トレーニングを実施し、相互理解と共感を深めます。期待される行動様式や働き方について、初期段階で明確な基準を設定します。多様性を尊重し、柔軟なマネジメントを行うことが鍵となります。
リモートでの品質とプロセス遵守の確保
- 課題: 進捗や品質の直接的な監督が困難であり、技術標準や社内プロセスの遵守を遠隔で確保することに課題が生じることがあります。
- 解決策: 明確で透明性のあるKPI(重要業績評価指標)を設定し、コード管理ツール(GitLab、GitHubなど)やCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デプロイメント)の自動化プロセスを活用して品質を継続的に管理します。定期的なコードレビューや品質チェックも不可欠です。
エンゲージメントとチーム精神の維持
- 課題: リモートワークは、チームの結束力、士気、そして組織への帰属意識を低下させる可能性があります。
- 解決策: 定期的な対面での交流会(予算が許せば)、創造的でインタラクティブなオンラインチームビルディング活動を企画します。個人的な情報の共有(適切な範囲内で)を奨励し、仕事以外の関係性も構築することで、帰属意識とエンゲージメントを高めます。
まとめ:ベトナムの力を活用し、イノベーションを飛躍させる
ベトナムの開発チームが、グローバル協働戦略においてイノベーションを推進する上で果たす役割は否定できません。ベトナムは、豊富で質の高い人材を競争力のあるコストで提供するだけでなく、政府の強力な支援政策や日本などの国際パートナーとの緊密な協力関係に裏打ちされた、適応能力と創造性を兼ね備えた戦略的パートナーです。
ベトナムは単なるアウトソーシングの拠点を超え、既に創造的で革新的な能力を持つテクノロジー開発の中心地として確立されつつあり、世界中の先進的なテクノロジーソリューションの成功に貢献しています。
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